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研究内容の紹介

​研究テーマ:分子の「集合」が生み出す革新触媒

はじめに

我々が豊かな社会生活を送るうえで重要な様々な有用化合物は、「触媒化学」を駆使して合成されています。つまり、触媒化学は、人類社会の持続的発展に貢献できる重要な研究分野です。私たちの研究室では、この触媒化学を更に発展させるため、以下の3つの重要な課題に注目して研究を行っています。まず1つ目の課題は既存の反応の反応効率を飛躍的に向上させることです。2番目の課題は、新たな原理に基づく触媒反応の開発です。そしてこれらの研究において、触媒反応の機構を詳細に理解することは極めて重要であり、これが3番目の課題になります。これら3つの課題を解決に導くため、触媒反応を分子の「集合」の力を使って制御します。この集合の力によって、様々な機能を1つの材料に複合化させ、高性能な触媒を生み出すことが私たちの目標です。

 そのための鍵となるのは「金属錯体」です。金属錯体は様々な反応の重要な触媒として機能することが知られています。金属錯体によって促進される反応は、人工光合成反応有機物質変換反応など多岐に渡ります。私たちは、集合の力を使って金属錯体触媒の持つ力を最大限に引き出すことを目指しています。

触媒化学の図.png

触媒化学における3つの重要な課題

研究の進め方と身につくスキル

私たちの研究室では、主に(1)新しい金属錯体触媒材料の設計・合成(2)得られた錯体の物性評価(3)新たな触媒材料としての反応性評価の3つのステップで研究を進めています。あくまでも一例ですが、各ステップでの研究の進め方と、その間に身につくスキルを紹介します。

 

(1)新しい金属錯体触媒材料の設計・合成

​新しいコンセプトに基づいた金属錯体触媒の設計をスタッフが学生さんと一緒に行います。設計後は、金属錯体合成スキームを計画し、実際に合成を行います。錯体の合成にあたっては、シュレンクラインマイクロウエーブ合成装置を用いることもあります。合成した配位子や錯体は、各種NMRスペクトルESI/MALDI TOF MSスペクトル元素分析単結晶X線構造解析などの手法を用いて同定します。

(2)金属錯体の物性評価

合成した自分独自の金属錯体についてその物性を徹底的に調べます。調査にあたっては、紫外可視近赤外吸収スペクトル蛍光スペクトル赤外吸収スペクトル電気化学測定などを用います。共同研究によってガス吸着プロトン伝導特性などを調べることも。面白い物性が発見された場合には、すぐに成果発表に繋げられる可能性もあります。

(3)新たな触媒材料としての反応性評価

合成・物性評価を行った金属錯体材料を用いて触媒機能の評価を行います。対象となるのは、水の酸化反応・二酸化炭素還元反応、水素発生反応、窒素還元反応に代表される人工光合成反応に加え、二酸化炭素挿入反応・C-H挿入反応といった有機物質変換反応です。反応性の評価に当たっては、ガスクロマトグラフィー液体クロマトグラフィー各種NMR測定GC-MS測定などを行います。このようにして触媒機能を評価することで、新しい触媒材料の開発を完了し、成果発表を行います。

研究内容の具体例の紹介

(1)「活性中心」と「反応場」の複合

 物質変換反応において、触媒反応を担う「活性中心」の近傍に反応基質の認識サイトとなる「反応場」を導入することは、良好な触媒材料開発の鍵であると言えます。そこで私たちは、活性中心として機能する触媒部位と分子間相互作用部位として機能する分子コネクタ部位とを連結した金属錯体(分子性触媒モジュール)を集合の力によって配列させ、活性中心と反応場が複合化された材料、「フレームワーク触媒」を新たに発案・開発しました。そしてこのフレームワーク触媒が、光水素発生反応、一般的に困難とされる水中での二酸化炭素(CO2)還元反応、光化学的CO2還元反応、高い結合解離エネルギーを有する不活性C(sp3)-H結合への高収率でのC-H挿入といった多種多様な反応を高効率で進行させることを発見しました。このように、私たちは触媒分子を規則的に集合させることで、活性中心と反応場を自在に複合化し、画期的触媒を創出しています。

 

関連論文:J. Am. Chem. Soc.2023, 145, 19, 10451–10457.  Small2021, 2006150. 

                   Inorg. Chem.202160, 17, 12634-12643.

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分子性触媒モジュールの集合によるフレームワーク触媒の構築と

フレームワーク触媒により促進される高効率CO2還元反応

(2)「活性中心」と「電荷伝達サイト」の複合

 天然の金属酵素においては、活性中心を取り囲むアミノ酸残基が電荷伝達などを担う反応媒体として重要な役割を果たしています。そして、この反応媒体の存在によって、温和な条件下での高難度触媒反応が達成されています。私たちは、この天然の金属酵素にヒントを得て、反応媒体を戦略的に制御することが可能な触媒材料の開発を行っています。これまでに、電解重合によって金属錯体触媒を集合させ、活性中心の周囲に反応媒体となる電荷伝達サイトを導入するための新戦略を発見しました。そして、この戦略に基づき開発したポリマー型材料が極めて良好な酸素発生触媒として機能することを明らかにしました。またこの触媒は、これまでに報告された類似の触媒系と比較して飛躍的に活性が高いことも判明しました。更に、均一系触媒反応における反応媒体の特異的な効果を見出すことにも成功し、既存触媒系と比較して60,000倍以上触媒回転頻度(TOF)の高い鉄錯体触媒系の開発に成功しました。また同様の概念を用い、既存触媒の100万倍以上大きなTOF値を示す銅錯体触媒系を得ました。このように、反応媒体を集合の力などを使って戦略的に制御できれば、今後さらに高性能な触媒材料が生み出されると期待できます。

関連論文:Chem. Commun., 202258, 2975-2978. ChemElectroChem20229, 52-58. 

                   ChemNanoMat20228, e202200028.  Angew. Chem. Int. Ed.202160, 22070-22074.  

                   Angew. Chem. Int. Ed., 202160, 5965–5969.

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電解重合に基づく「活性中心」と「電荷伝達サイト」の複合

により得られる酸素発生能を有したポリマー型触媒

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